
「自然が美しいものを用意してくれているのだから、余計な飾りはいらない」。そんな自然へのリスペクトから「土に還らない素材は使わない」、そして衣食住にまたがる豊かなライフスタイルを、ファッションという切り口からひとつの提案として半世紀も前から形にしてきたブランドがJURGEN LEHL(ヨーガンレール)というブランドです。
天然素材・天然染料を使ったもの作りを追求し、手紡ぎ手織りの生地を使ったアイテムも展開。 着心地が良く心休まる、丁寧な手仕事を感じられるアイテムを提案し続けています。
この記事では、ブランドの歩みと哲学そして魅力を、ゆっくりと紐解いてみたいと思います。

JURGEN LEHL(ヨーガンレール)は、ドイツ人デザイナー、ヨーガン・レール氏が立ち上げたブランドです。
彼のものづくりの原点は、卓越した色彩感覚と高い表現力を持つ「テキスタイルデザイナー」としてのキャリアにありました。そんな彼が日本を訪れたのは1971年のこと。当初は数か月の滞在予定でしたが、日本の素材や職人の手仕事に深く魅せられ、そのまま定住を決意します。来日当初は三宅一生氏とともにテキスタイルデザインの仕事なども手掛け、日本の素材や職人技術の可能性をさらに深く追求していきました。

翌1972年、東京で自身のブランド「ヨーガンレール」を設立。衣服にとどまらず、家具や器までを同じ空間に並べました。今でこそ当たり前になった「ライフスタイルショップ」の先駆けとして、衣服・食・住まいが一体となった豊かな暮らしのあり方を早くから提示していました。
やがて彼の関心は、より深い手仕事と自然そのものへと向かっていきます。2006年には姉妹ブランド「Babaghuri(ババグーリ)」を立ち上げました。この印象的な名前は、彼が愛してやまなかった「パキスタン・ラタンプールの瑪瑙(めのう)」の現地の呼び名に由来しています。
このラインからインドの手紡ぎ・手織り・草木染めのものづくりや、インテリア、キッチンウェアなど生活全般へと世界を広げていきました。晩年は沖縄・石垣島に移り住み、自然に抱かれるような暮らしのなかから服を生み出し続けます。
ゆったりとした足並みで、素材や手仕事の声に耳を澄ませる。その一貫した姿勢は、ブランドが半世紀を超えて愛される理由そのものになっています。

ヨーガンレールを語るうえで欠かせないのが、「土に還る素材でものをつくる」という徹底した信念です。
環境を汚さず、いずれ自然へと還っていく素材だけを使うように配慮されたモノづくりが基本となっています。一見天然由来に思える素材であっても、製造や廃棄過程での科学的なエビデンスがとれないものはクリエイティブの選択肢に入れない徹底ぶりだそうです。ボタンには貝や木などの天然素材が選ばれ、染料もまた自然由来のものを吟味して用いられます。
昨今では「オーガニック」や「サステナビリティ」という言葉を日常的によく耳にするようになりました。しかし、ヨーガンレールでは、そうした言葉をあえて大きく掲げることはありません。
彼らにとって、糸を選び、天然染めで色を載せ、土に還る素材で服を仕立てることは、自然への畏敬と共に歩む暮らしの延長にある「ごく当たり前」のことと捉えているからです。

この姿勢は、環境配慮という言葉が一般化するはるか前から、静かに続けられてきました。何かを誇示するためではなく、ただ自然への素直な敬意からものづくりをはじめる。その心地よい佇まいとぶれない視線が、装飾を削ぎ落とした気取りすぎない服として感じとることができます。

ヨーガン・レール氏の美学は、服という枠組みを大きく飛び越え、暮らしのあらゆる側面に及んでいました。
「自然がこのように美しいものを用意しているのだから、私は飾りもののような不要なものは作りたくない」。その思想が顕著に表れているのが、彼の残したプロダクトやコレクションです。
例えば、パパイヤやエミューの卵から型を取って作られた器シリーズ。一見すると均一のようでありながら微妙に歪んでいるその造形は、自然のエッセンスを暮らしの中に取り入れることができます。「完璧すぎない歪みこそが、温かな食卓によく合う」という彼の独特な美学から生まれました。こちらは定番の色に加え、シーズンカラーも毎年展開されています。こちらはkuneにてお買い求めいただけます。
また、チークの一木造りの椅子コレクションや日本の伝統的な竹細工であるやたら編みのスツール、世界中から集められた無骨で美しい瑪瑙のネックレスコレクションなど、自然の造形美に対する深い眼差しがありました。
本社にある「社員食堂」もまた有名です。身体に優しく素材の味わいが存分に活かされた料理を社員と共に分かち合う姿勢は、衣・食・住を分断せず、ひとつの輪として捉えるヨーガンレールのライフスタイルそのものを象徴しています。
晩年、彼は海岸に打ち上げられたプラスチックゴミを集め、それを美しい照明器具へと生まれ変わらせた「ゴミを集めた展示(最後のおくりもの展)」を開催しました。環境破壊への静かな抗議でありながら、どこまでも美意識を失わないそのアプローチは、彼が生涯をかけて貫いた「自然への敬意」の到達点と言えます。

ここで、生地にクルーズアップをしてヨーガンレールの魅力を紐解いてみたいと思います。
近年、日本の気候は亜熱帯化・東南アジア化が進み、夏の湿度は高く、蒸し暑い真夏日が増えてきています。こうした気候の中で今あらためて取り入れてみたいのが、ヨーガンレールが長年大切にしてきた「手紡ぎ・手織り」の生地、インドの「カディ(Khadi)」です。
歴史的に、イギリスの機械製織物に抗う自立の象徴でもあったインドのカディ。不均一に紡がれた糸で織られる手紡ぎの布は、糸の間から空気が適当に抜けていきます。手仕事の生地の揺らぎにより、機械織りの生地よりもはるかに通気性が良く、汗をかいても肌にまとわりつかないのです。

開放的で軽い着心地、ナチュラルで風を爽快に通すゆとり。身体からの水分を吸ってドレープが生まれ、着る人の骨格に沿って柔らかく落ちていく。肉体を主張するためではなく、日本の夏や湿気から身を守り、風を纏うように美しく快適に過ごすための知恵が、ヨーガンレールの服には込められています。
カディを含む手仕事の背景を深く知りたい方は是非、「ヨーガンレールとババグーリを探しにいく 」という本を読んでみてください。ヨーガンレール氏が撮った写真と共に、インドへの旅や世界各地の手仕事を深く知ることができる時間を楽しめますよ。
ヨーガンレールは、一見すると素朴でシンプルなブランドのように見えますが、実は自社内に素材開発部を抱え、原料の選定から染色、ニットの編み立てまでを独自に行える日本のメゾンブランドとしての圧倒的な強みを持っています。長年パートナーシップを築いてきた産地や職人との深い信頼関係があるからこそ、他では決して真似できないオリジナルの生地開発が可能なのです。
例えばニットアイテム。彼らはアイデアが生まれると、自社ですぐにサンプルを編み立てて着用感を検討するそうです。コットン100%では硬さが出てしまう生地には、わずかに絨毛(ウールやカシミヤ等)を混紡することで、洗練された柔らかさと落ち感を出すなど、素材の掛け合わせもブランドならでは。
また、色の表現においても、ヨーガンレール氏が生前集めていた自然の鉱物や植物のコレクションから色を抽出し、再現されています。
ここからは、ヨーガンレールの美学が詰まった特徴的なアイテムを2点、スタイリングと共にご紹介します。その土地の文化や手仕事が詰まったアイテムです。
アイテム① 麻縮(日本)
ヨーガンレールの「麻縮(あさちぢみ)」は、生地の持つ自然の縮みを生かし、風をはらむ独特の立体的な風合いと涼感を引き出した代表的な生地です。そのルーツは新潟の越後上布や小千谷縮(おぢやちぢみ)に代表される日本の伝統的な「縮織り」にあり、強撚糸(きょうねんし)を用いてシボ(凹凸)を出すことで肌にまとわりつかない職人技の知恵が息づいています。
▶︎Jurgen Lehl J0162FJM502-うす茶 麻ちぢみ ジャケット うす茶
アイテム② キルト(インド)
ヨーガンレールの美学が凝縮された定番ジャケット。最大の特徴は、ジャケットのラペルを立てた姿とスタンドカラー(立襟)を融合させたオリジナルの襟形。さらに肩線は1920年代のヴィンテージウェアをサンプルに設計されたラグランスリーブのような形です。身体からの水分を吸うことで肩周りが自然に馴染み、硬い生地であっても次第に柔らかく落ちていきます。
古代の防寒の知恵から生まれたキルト技法を踏襲し、表地にシルク、裏地にウール、中綿にコットンを用いて職人が一線ずつ手作業でステッチを施した一枚です。仕上げに縮絨(しゅくじゅう)加工を加えることで、生地に豊かな奥行きと立体的な陰影を表現しています。裏地の手縫い跡など、インドの伝統的な手仕事の温もりと表情が贅沢に凝縮されたスペシャルピースです。
▶︎シルクウールコットンキルトジャケット JO151FJM301

デザイナーのヨーガン・レール氏は2014年に世を去りました。しかし、彼が生涯をかけて追い求めた思想は、今もブランドの一着ずつに確実に息づいています。
生前、彼はスタッフや職人たちに「10年後にも残る、名前のない服を作れ」とよく語っていたといいます。
ブランド名やロゴという記号で飾るのではなく、地位や見栄のためでもない。ただ「自分自身の価値」のために服を選ぶ人に着てほしい。年齢も、国籍も関係なく、誰もが自分らしく自然体でいられる新しい服。それこそが、彼が目指した服のかたちでした。
「つくること、そしてそれを美しいと思ってくれる人を見つけること」。
その言葉通り、ヨーガンレールの服は流行という短い時間軸ではなく、10年、20年という長い時間のなかで愛され続けています。

また、職人の手仕事を軸にして仕立てられる生地や服は、その年・その季節だからこそ生まれた一期一会のようなもの。職人の高齢化や環境の変化もあり、「この風合いの生地は、来年はもう作れないかもしれない」ということもよくあるそうです。だからこそ、その一瞬の仕事に魅せられ、長年にわたって大切に集め続けるコレクターが絶えないのもヨーガンレールというブランドの魅力です。

装飾や流行に頼らず、自然への素直な敬意から生み出される服。その一着は、着る人の暮らしに寄り添いながら、時間をかけてゆっくりと馴染んでいきます。
このジャーナルを読んでくださっているあなたにも、ぜひ実物に触れていただきたいと思います。カディの風を通す軽さ、麻縮のやさしいシャリ感、独自の襟が描く美しい曲線、貝ボタンの温もり。写真では伝えきれない素材の魅力は、店頭でこそ感じていただけます。
手仕事ゆえにひとつひとつの表情が異なり、取り扱う店舗や数も限られているため、出会いも含めて一着との縁を楽しんでいただけたら幸いです。
▶︎Jurgen Lehl Babaghuri Men’s(ヨーガンレールババグーリメンズ)コレクションの 商品はこちら
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