
デザイナー・吉本天地氏が手がけるブランド、amachi.(アマチ)。アメリカ・カリフォルニアの深い山奥というインフラのない環境に生まれ、自然と背中合わせの幼少期を過ごした後に、世界各地を巡り長野県の山麓へと拠点を構えた同氏は、「自然と人間の関係性」というコンセプトを掲げ、衣服という切り口を通して探求し続けています。
今回は、amachi. の根幹を支える基盤的ワークウェアライン「Collection 000」と「シーズンごとのコレクションライン」。ものづくりの双方に流れる魅力を紐解いていきます。
amachi. の衣服に触れる上で注目したいのが、デザイナー・吉本天地氏の生い立ちと彼が身を置く環境の変遷です。1993年、アメリカ・カリフォルニアの山奥で生まれた吉本氏は、電気もガスも水道もない極端なローカルエリアで幼少期を過ごしました。朝の光の傾き、風の温度、草木のざわめき、足元の石や土の感触をダイレクトに肌で受け止めながら育った原体験はその後の彼の感性の絶対的な核となっています。
その後、日本を拠点としながらも世界各地を転々とする生活を経た彼は、10代後半からファッションブランドやテキスタイルメーカー、パタンナーの元で服作りの技術と経験を積みます。単に既成のトレンドを消費するのではなく、「作品」として衣服をつくり始めることを契機に、2017年、長野県の山麓に拠点を構えて amachi. をスタートさせました。
ブランド設立から数年間は自身の核を固めるために東京から離れ、外部からのノイズを抑えた環境で服づくりに向き合ってきた吉本氏。そして近年、さらなる思考の深化に伴いアトリエをさらに自然の深部へと移しました。
裏山にシカやイノシシ、モモンガといった野生動物が姿を現し、鳥のさえずりだけが響きわたる静謐な森の中。日々のルーティンとして裏山を歩き、その足元にある地衣類や火山ガラス、鉱物や植物の微細な表情からインスピレーションを得る。
彼のオリジナリティあるものづくりは、フィールドワークをベースとした自然界の圧倒的なディテールの観察と人間の身体感覚から紡ぎ出されているのです。そのようにして生まれるブランドのラインは2つの川へと分かれてゆきます。
amachi.の普遍的なワークウェアライン「Collection 000」は、現代的な実用性と身体感覚を兼ね備えた衣服として継続展開されています。2022年よりスタートしたこのラインは、デザイナー自身の日々の労働着やアトリエでの作業着として徹底的な改良を重ねて完成形へと至った、数型のみで構成されています。
インスピレーションを得るためのフィールドワークの際にも着用されるということもあり、ブランドの根幹を支える核として大切にかつ継続的に制作されています。
Collection 000 を貫く思想は、懐古的なワークウェアではなく、現代の私たちに向けた実用性と身体感覚を兼ね揃えた衣服になっているという点です。

ここにラインナップされる衣服は、デニムの名産地として知られる岡山県倉敷の機屋で織られた高密度コットンのように、日本随一のワークウェア産地が生み出すタフで耐久性の高い生地などがベースにされています。
この思想を体現するマスターピースが「Meeting Jacket」です。カバーオールをベースに、スマートフォン専用ポケットや、重い荷物を入れてもシルエットが崩れない大容量の立体ポケットを備え、手ぶらで行動できる高い収納力を誇ります。機能的な構造、タフな素材、そして自然環境と反応する天然染めが融合した一着は、着込むほどにその人だけの形跡が蓄積されてゆきます。

普遍的なラインというだけあって生活に取り入れやすい衣服が多く、「ミーティング」という名前が示すようについ外に出て行きたくなるような軽やかさを感じさせてくれます。街の景色から自然風景まで様々な景色に出会わせてくれる1着となり、amachi.を初めて手に取る方にオススメです。
「Meeting Jacket」について詳しく知りたい方はこちらのジャーナルを是非ご覧ください。
さらに歩行をテーマにした過去のコレクション “Between bodies and fields”(2021年)では、吉本氏が実際に草原を歩いた際、衣服に付着した植物の種子の位置を克明に記録し、繊細な刺繍として記録させた実験的な試みであるMeeting Jacketも展開されました。実はV.O.Fの別注としてこちらのシーズンのジャケットをリバイバルさせてもらっています。
また、純天然染めは酸性に反応し褪色するという一見ネガティブに捉えられる要素を活かし、採取してきた葉っぱの姿を記録する”Records of phenomena”という試みも展開されたことがありました。
「Collection 000」は恒久的なラインではありますが、今後も吉本氏の感性から生まれる新たな試みに注目したいところです。

先ほどの普遍的なワークウェアライン「Collection 000」は、地に足をつけながら五感を通して環境と向き合う土台となる衣服が展開されていました。

しかし、フィールドワークの要素を多く含む「Collection 000」とは対照的にamachi. がシーズンごとに発表するコレクションラインは、単なる衣服の提案を超えて彼独自のフィルターを通した作品に昇華されてゆきます。それはまるで、コトバになる前の感情であり、自然現象を読み解く詩的な紀行文のようです。
例えば、季節的におこる自然界の動植物が示す諸現象をテーマにしたCollection014 “Phenology”では燕の巣を彷彿とさせられるようなパターンやシルエットが登場しました。
ブランド初期の具体的なモチーフ(植物の種子や身の回りの現象など)から出発したアプローチは、経験を重ねるにつれて、より抽象的で深い概念へと進化を遂げています。
例えば、近年のコレクションにおいて掲げられた “Decomposition(分解)” や、地表のグラデーション、鉄分を帯びた水流、磁力や重力をテーマにした “Biotop Garment” といった主題がそれを象徴しています。

自然物には到底真似できない圧倒的な時間の奥行きや深さ、複雑な色味、思慮深さ。そこにどこまで衣服の存在感やファブリックを通して表現できるかという眼差しがコレクションラインには内包されています。コンセプトの着眼点だけでも毎シーズン驚かされますが、複雑な自然を衣服という手法と視点で限界まで表現するところがamachi.の面白さです。
例えばこちらのジャケット。背中のパーツを幾重にも重ねることによって立体感を生み出しています。服作りで立体感を出すと言えばタックやダーツを用いるのが一般的なアプローチに思えますが、地層のように蓄積させるという自由な手法に気の流れを感じさせるダイナミックな曲線で描かれるパターン。

amachi.らしい独創的なデザインが詰め込まれている1着です。
こちらのアトリエコートは民族衣装からインスピレーションを受けたものです。ヒマラヤ山脈の高山地帯に位置するカシミール地方では暖房がない過酷な環境にあるため、火をつけた炭をカゴに入れて服の中で持ち歩きながら暖を取るとのこと。私たちの文化からすれば移動式こたつという感じでしょうか。
そのため、身幅・袖幅が大きく脱ぎ着しやすい構造になっています。民族衣装はその地域の自然環境から大きく影響を受けており、その構造や素材は人と自然の歴史的な関係性を色濃く表したものと言えそうです。
瑪瑙のテクスチャがトレースされたこちらのニットは複雑な色味が一つの形として成り立っています。多くのニュアンスカラーの糸数を機械編みの限界値まで使うことによって、自然のテクスチャが表現された1着です。
こちらのジャケットは「ND – Rust Brown」という色名がついています。デザイナー自身が採取した石の色からのトレースや錆びた鉄からインスピレーションを受けたものだそうです。見た色を表現することは簡単ではなく、染色職人との多くの対話を経て生み出されたことが想像できます。

ボタンのような細かいディティールにも世界観が現れています。3つ穴ボタンには「生・死・再生」の自然法則から複雑な自然環境が調和が取れている安定性のように、直感的でシンボリックなエッセンスが含まれているようにも感じ取れます。

雪解けの地面を想起させられるようなカードケース。フロッギー加工で表現された苔は、日光当たるプロセスを経てゆっくりと枯れてゆきます。
ここまでコレクションアイテムを簡単に紹介してきましたが、amachi.のコレクションラインから表現される衣服のデザインからは直感的にコンセプトを感じ取ることができるエッセンスが含まれています。アート作品と対峙したときのようなわくわくさと分からなさ。単に着こなすだけではない、吉本氏やブランドの世界観に視点を重ねて想像する余白があるデザインにコレクションラインを通して触れることができるのです。
amachi.としてとして活動することだけではなく、美術館でのインスタレーション空間の設計や、現代美術の展覧会への参加など、純粋なアートとファッションの境界を軽やかに行き来するアプローチも吉本氏の取り組みとして積極的に行われています。ブランドの世界観だけに留まらず、様々なシーンとのコラボレーションにも今後も注目してみると良さそうです。

長野の山々にアトリエを構え、自然界の微細な現象や土地の記憶をすくい上げる amachi. のものづくり。
現代的な実用性と確かな身体感覚を兼ね備えた「Collection 000」。 そして、シーズンごとに展開される、詩的で彫刻作品のようなコレクションライン。 一見対照的に思える二つの流れは、「自然と人間との関係性」という一本の大きな川へと静かに収束していきます。
足元の土を踏みしめ、風を感じ、植物や鉱物といった地球の素材と対話すること。 amachi. の衣服に袖を通すとき、私たちは単なる装いとしての美しさを超えて、その背後に潜む壮大な自然の営みや土地の記憶そのものを纏っていることに気づかされます。
吉本氏が提示し続ける静かで力強い眼差しは、忙しない現代を生きる私たちの感覚を、本来あるべき豊かな自然のサイクルへとやさしく連れ戻してくれます。
まるでフィールドワークのように五感を通じて触れる衣服には、自然そのものが持つような豊かな立体感が息づいています。 私たちが日々の暮らしで身に纏う「衣服」とは一体何なのか。 このジャーナルがそんな根源的な問いに耳を澄ませるきっかけとなれば幸いです。
amachi. EXHIBITION “Biotop Garment” @amachi.y
2026.11.7 sat – 11.16 mon
10:00 – 18:00
※デザイナー在廊日は11/7(土)8(日)
場所 kune

「Biotop Garment」と題した26AWコレクションでは、鉄の川、黒い大地、磁力や重力といった土地が投げかけるものを受け止め、「衣服は環境となり、精神と身体を外界と繋げる」というコンセプトのもと作品が展開されます。
今回はコレクションピースを踏まえたラインナップをご覧いただき、ブランドの深い世界観を体感していただける貴重な機会となります。
また、会期中 11/7(土)・8(日) はデザイナーの吉本天地氏も展示スペースに在廊いたします。彼の思想や背景に触れながら、直接お話ししていただけます。
燃える山が日に日に深くなる奥羽山脈の中腹で皆様のご来店をお待ちしております。
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出店 珈琲ノ生 @shobone ※11/8(日)のみ 珈琲を片手にゆっくりと衣服をご覧ください
取り扱い実店舗はCONTEXT TOKYO(表参道)とkune(岩手)の2店舗となります。
衣服はアイテムに関して、ご不明な点がありましたら店舗やオンラインにてお気軽にお問い合わせくださいませ。
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