suzusan(スズサン)とはどんなブランド? – 伝統をモダンに纏う楽しさ

2023AW Collection “HONESTY” LOOKより引用

歴史に裏打ちされた職人技を現代の衣服へと落とし込み、モダンなファッションとして提案する。そんな唯一無二の世界観を持ったブランドが、愛知県名古屋市有松地方に伝わる絞り染めの技術を背景に持つ『suzusan(スズサン)』です。

2024AW Collection “MELANCHOLY” LOOKより引用

一見すると、現代的で洗練されたスタイル。しかしその輪郭を形作っているのは、400年以上の歴史を持つ「有松絞り」という職人の手仕事です。

機械による均一な生産ではなく、手仕事だからこそ生まれる「滲み」や「皺(しわ)」。suzusanは、単に「伝統工芸だから良い」という懐古主義的なスタンスではなく、現代のファッション、そしてライフスタイルに寄り添うプロダクトとして、絞り染めの新たな可能性を世界へと発信しています。

ブランドのなりたち – 有松から世界へ、職人の職を未来へ紡ぐための挑戦

suzusanは、400年以上にわたり有松絞りのファクトリー(家業)として歴史を紡いできた鈴三商店の第5世代、村瀬弘行氏によって設立されました。鈴三商店は元々「影師」と呼ばれる仕事を生業としており、製品の柄の「型彫り」や「絵刷り」、そして全体の絞り加工の工程を総合的にコーディネートする役割を担っていました。

型は柿渋で硬く塗られている
使い込まれた道具の唯一無二な表情

元々は和服の染めをルーツに持っていた有松絞り。しかし、時代の変化とともに和装の需要が減少し、忙しいシーズンが限られることで、職人が安定して稼げない「農閑期」のような、仕事が途切れる時期が課題となっていました。

「職人の仕事を安定化させ、この技術を未来へ繋ぐ仕組みが必要だ」

そんな強い意志から、冬場にも仕事が作れるようにカシミヤ素材の絞り染めに力を入れるなど、現代のライフスタイルに合わせたモノづくりがスタートしました。現在では、パリやミラノをはじめとする世界各国のセレクトショップで高い評価を受け、日本の伝統技術を世界基準のファッションへと昇華させています。

定番・おすすめアイテム

そんなsuzusanのアイデンティティを感じられる、代表的なプロダクトを技法と素材を通して紹介します。suzusanの衣服は染めだけが魅力ではありません。染めを施すテキスタイルにもこだわり、オリジナルで仕上げることが多いのも特徴的の一つです。

3084K-544 Cashmere SeamlessTurtleneck Raglan Pullover ,6003 Brown – Sand

STYLE: 板締め絞り
MATERIAL: カシミヤ(Cashmere)

生地を規則正しく折り畳み、板で挟んで固定した状態で染める技法からシャープなラインや幾何学的な格子模様が浮かび上がります。

羽毛のように軽いモンゴル産のラグジュアリーなカシミヤを使用。一つの釜で一度に「5着まで」しか染められないという、極めて限定的な生産方法で丁寧に作られています。極上の柔らかさに、絞りの立体感が加わったストールやニットは絶品です。

2057L-010 Linen Jersey Long Sleeve Crew Neck Pullover Madara Shibori Black / Grége

STYLE: まだら絞り
MATERIAL:リネン(Linen Jersey)

ブランドの定番であるランダムな染めが特徴のまだら絞りは技法の中のベーシックスタイル。糸を手で括る強弱が生み出す、色の混ざり合いや濃淡の美しさが際立つ自然な表情が特徴です。

夏の肌に心地よく馴染む、清涼感のあるリネン素材。伸縮性のあるジャージー生地に絞りを施すことで、絶妙なドレープ感が生まれます。夏といえば着物というイメージを覆してくれる1着です。

9018NLT-020 Marshmallow Bag (SUZUSAN × GUIDI) Tesuji Shibori

STYLE: てつじ絞り
MATERIAL:ナイロン(Nylon)

イタリアの伝統的なアルティザン(職人)レザーブランド『GUIDI』とのコラボレーションバッグ。極上のレザーと絞り染めの美しさを融合させた、まさに東洋と西洋のクラフトマンシップを感じられるアイテムです。

伝統的な天然繊維だけでなく、現代的なテック素材にも絞り染めを施す。熱定着によって、絞りの凹凸(立体的な皺)が半永久的に記憶され、フューチャリスティックな表情も見せてくれます。

シーズンによって変わるオリジナル生地や柄、さらに深堀すると同じアイテムでも絞りの柄が手の揺らぎで1つ1つ違います。基本的には一度出たものが再登場することはありませんので、あの時のあれが良かったということもしばしば。一期一会の出会いを楽しめるのもsuzusanの魅力の一つなのです。

近年では、環境のことを考える中で、これまで使えていた染料が廃盤になることも多いといいます。その度に職人さんたちは、再び美しい色を出すために気の遠くなるような色の微調整を重ねています。そんな「目に見えないテマヒマ」を経て、1枚の布が染め上げられているのです。

ファッションとインテリア – 空間を彩る絞りの表現

suzusanの表現は、身に纏う衣服(ファッションライン)だけにとどまりません。絞りの工程で生まれる立体的で有機的なテクスチャーを活かしたランプやスロー、ランチョンマット、PCケースなど生活を豊かに彩る「インテリアライン」も同時に展開しています。

デザイナーである村瀬弘行氏のドイツのデュッセルドルフ国立芸術アカデミー立体芸術及び建築学科で学んだ背景や現地での生活、ファッションで培われた感性がそのまま空間の提案へと広がっています。ライフスタイル全体で有松絞りの立体感やぬくもりを感じられることも、suzusanというブランドの大きな魅力です。

スタイリング – 染め物を洋服として日々のスタイルに取り入れる

一見、主張が強そうに思える「染め物」ですが、suzusanの衣服は現代的なシルエットと温度感にデザインされているため、驚くほど日常のワードローブに溶け込みます。

STYLING 1

シンプルなTシャツにデニムの王道スタイル。全身をモノトーンにまとめることで絞りの滲みや立体感がアクセントに。シックでこなれたスタイリングが楽しめる。

STYLING ITEM ▶︎ SUZUSAN 5047C-020 Cotton Denim Loose Fit Pants 1098 Black – Indigo

STYLING 2

レディースのワンピースは面で魅せるダイナミックな柄が特徴。1枚でモードなスタイリングに。

STYLING ITEM ▶︎ SUZUSAN 7060C-330 Cotton Pin Stripe Half Sleeve Dress Black – White

有松絞りの歴史 – 偶然から始まった、人が集まる伝統の現在

有松絞りの発祥には、ユニークな歴史があります。江戸時代、東海道のこのエリアは元々名古屋城へと続く道が坦々とあるばかりで、盗賊が出没しやすい場所でした。そこで防犯のために人々が移り住みましたが、山に囲まれている環境もあり作物が育ちにくく、農業や宿泊業だけでは生活が成り立ちません。そこで、尾張藩の政策として絞り染めの技術を持ち込み定着したという背景があります。

有松絞りは瞬く間に広がり、お土産としても重宝され、その人気っぷりは安藤広重の東海道五十三次の浮世絵にも描かれるまでになる程だったそうです。

地域に2.3種類あれば染めの種類が多いと言われる中で、有松絞りは100種類を越える柄があります。宿場町ということもあり、山越え谷越えやってきた地方各地の宿泊者が集う場所。そこから自ずと纏う衣服の染め柄で粋なものがあれば取り入れていたようです。例えば、「疋田三浦絞り」。

こちらは、疋田という地域の三浦さんが着ていた着物から着想を得た柄だったそう。着ている衣服でファッショントークをしながら夜通し酒を酌み交わす、なんてこともあったかもしれませんね。背景に想像が膨らみます。

筆者の住む岩手県花巻市の隣には、遠野という地域があります。こちらも、山に囲まれた盆地で内陸や海からやってきた人々の宿泊場でもありました。ここでは有松のように絞り染めが多く集まる代わりに、山で見た山男や山女、天狗の話など、妖怪にまつわる話が集まる場所になっていきました。日本民俗学の父と呼ばれる柳田國男による「遠野物語」がその例です。

こうしてみると山に囲まれた地形は人々の文化の受け皿になっていたことがよく分かりますね。

有松絞りが生まれるまで – 職人の確かな技術が橋をかける物語

絞りの工程は、気の遠くなるような手間と職人の連携によって成り立っています。

模様型(デザイン): 和紙に柿渋を塗って硬くした型紙を使い、生地に下絵を施します。

くくる・折る工程: 生地の折り方、絞る工程が命。特に「くくる」作業は、単にきつく縛るだけでなく、次の染色職人が「解きやすいように」という効率と正確さが高いレベルで求められます。

染色の工程: 夏場は湿度99%にもなる過酷な環境の中、職人は手袋を何重にも重ねて作業を行います。機械ではコントロールできない、素材ごとの染料の調整や、特に難しいとされる「黒」の絶妙な色調を、職人の長年の勘によってコントロールしていきます。

実際に生地を解いてみるまで、どんな柄が仕上がっているか分からない。だからこそ思ったような柄が出ないリスクも高いそうで、常に職人の緊張感と手仕事の技術が試される世界です。

伝統をモダンに纏う楽しさ

suzusanオフィシャル画像より引用

かつては数々の「柄(模様)」が集まる伝統工芸の産地だった有松。しかし今、suzusanの工房を訪れると、若い職人たちが自らの仕事に誇りを持ち、生き生きと楽しそうにモノづくりについて語ってくれる姿が印象的です。いまや有松は、ただ伝統的な柄が集まる場所ではなく、国内外問わずその熱量に惹かれた「志のある人たちが集まる場所」へと変化を遂げています。

有松に足を運んだ時の様子
旅を通して深まる理解も面白い

もし機会があれば、実際に有松へ行って実際に絞り染めを体験してみると良いかもしれません。

自分で生地を折り、くくり、染料に浸してみる。そのプロセスを一度でも体感すると、suzusanのプロダクトに並ぶ綺麗な皺や滲みが、計り知れない技術と時間で生み出されているかを肌を通して直感的に理解することができます。

suzusanオフィシャル画像より引用

作り手たちの生き生きとしたエネルギーの裏にある、圧倒的な技術。それを知ることで、クローゼットにある1着への愛着はさらに深いものへときっと変わるはずです。

伝統を現代の「ファッション」として日常的に身に纏うこと。suzusanの衣服に袖を通すことは、職人たちの誇りや、400年紡がれてきた時間を肌で感じる体験です。機械では決して再現できない、手仕事だからこそ宿る不均一な美しさとぬくもりを、ぜひお店で体感してみてください。

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照井 彪斗 TAKETO TERUI  |  KUNE STORE MANAGER  |  Instagram
岩手県花巻市出身。
地元の民俗芸能である鹿踊りを継承しています。
散歩と温泉巡りと古い酒器でお酒を飲むことが趣味です。